DIARY

【資産を活用して新たな軸を立てる!】

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資産を活用して新たな軸を立てる!
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<本文のポイント>
・「未来のレモンサワー」の開発の裏側
・アサヒビール株式会社のマーケティングコミュニケーション
・アサヒに学ぶ就学前教育保育施設のマーケティング

<本文>
11月19日に再再販された「未来のレモンサワー」は、
6月と8月に期間×数量×販売地域の3つを限定し販売すると、
SNSで話題を呼び瞬く間に売り切れてしまったヒット商品ということで、
RTD(Ready to Drink:すぐ飲めるお酒)市場を席捲しています。

どのくらいのインパクトがあるのかというと、
首都圏・関信越エリアにおける2024年1-9月データを見ると、
販売額昨年対比が100%前後で推移しているRTD市場で
未来のレモンサワーが販売された時期(6月中旬、8月下旬)の
販売金額がそれぞれ前年比で134%、123%と
大きく伸びているのがわかります。


出典:PRTIMES https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001292.000016166.html

アサヒビールの新たな挑戦が背景にありますので、
少しひも解いてみたいと思います。

アサヒビール株式会社は、
2023年3月に現在の松山一雄氏に社長が代わってから
大きく次の3点を方針に盛り込み、
より顧客中心のマーケティングに方針転換しています。

1.「うまいビールがある、いい人生」の提供
 →美味しさだけではなく人生が豊かになる新たな軸として消費者にワクワクを提案
2.脱スーパードライ一本足打法
 →スーパードライ以外のビールやその他のジャンルを通して、強いブランドづくり
3.資産の活用
 →これまでの自社のヒット商品の水平展開を開発に取り込む

まずは1「うまいビールがある、いい人生」の提供ですが、
市場は発泡酒、新ジャンル含めて縮小しているが、
味の評価は右肩上がりで上がり続けているのが日本のビール市場の特徴で、
松山社長は美味しいだけでは消費者の価値にはつながらないことを悟ります。
美味しいという軸に加えて「楽しい、ワクワクする」
消費者に提供することでマーケティングにドライブをかけることを
まず社内に打ち出します。

戦後、KIRIN、ASAHI、SAPPOROの3社で30%と
ほぼ同じシェアでスタートし、後にキリンがほか2社に溝をあけていきます。
ASAHIの代名詞とある「スーパードライ」は
1987年に市場に投入され、それまでの「ニガイ」一辺倒に閉塞感のあった
ビール市場に「辛さとすっきり感」で差別化を図り市場を席巻することで、
2001年に首位の座を奪います。


出典:BOND UNIVERSITY https://bondmba.bbt757.com/post-events-archive/post-1143/

2001年のKIRINとの首位交代以降、
ASAHIはスーパードライへの依存度が高まり、
長い間新たな挑戦ができずにいたと言います。

松山氏は2018年にアサヒビール株式会社に
専務執行役員マーケティング&セールス統括本部長として入社します。
長い間他業界から一消費者としてビール業界を俯瞰してみていた松山氏には
ビール業界は微細な差別化によるシェアの奪い合い合戦を続ける
消費者視点の抜けたワクワク感の無いマーケットに映っていたようです。

2020年のコロナ禍を迎えると、
途端に「不要不急」が流行となり、世の中から「面白味」が消えていきます。
このタイミングでアサヒビールは「マルエフ※」を投入し
ビール関連市場のインサイト(潜在的欲求)に手応えを感じます。

※マルエフとは1984年から1985年にかけて実施した嗜好調査で
「苦くて重いビールから、のどごしのよいすっきりした味わいのビールへ」という
顧客ニーズの変化を捉えた“コクがあってキレがある「アサヒ生ビール」の通称。
1986年に発売し、翌年の「スーパードライ」のヒットの足掛かりとなるも
その後、生産体制を「スーパードライ」に集中するために1993年に缶は終売となった。

翌2021年には庭内での飲用をより楽しく、ワクワクさせる、
新しい価値を提供する商品として『アサヒスーパードライ 生ジョッキ缶』をリリースし、
アサヒビールは自社の資産価値をさらに高めることに成功します。

こうして、2つ目のスーパードライ一本足打法からの脱却は実現していきます。

3つ目の資産の活用は、特許を取得しているこの生ジョッキ缶を活用し、
新たな自宅で飲める本格レモンサワーというコンセプトで、
顧客に新たな「ワクワク」を提案した「未来のレモンサワー」です。

ジョッキ缶を開けた時の「パカッ」という爽快音に加え、
泡とともに缶底からレモンが浮き上がってくるビジュアルで五感を刺激する
この新商品は構想と開発に3年半もの時間が費やされたと言います。

レモン系で全体の50%を占める缶酎ハイ市場は、
似通った商品が多く、各社微差の違いを出すことで差別化を図りながら
シェア獲得戦が繰り広げられています。

ASAHIとしてはこの微差による差別化合戦に風穴を開けるべく、
X軸(フレーバー感)とY軸(アルコール度数)に加えて
消費者がワクワクするような新たな「Z軸」として、
本物のレモンの入った缶酎ハイを開発したのです。
この際に既存資産である「ジョッキ缶」はこの商品開発に
大きく貢献することになります。

出荷数などの詳細は明らかにされていないようですが、
レモンの調達と生産上限の関係から
6月11日と8月27日に首都圏の1都9県で発売され、
売り切れが続出したと話題になりました。
直近では11月19日に、上記エリアで再再販しているのと、
12月17日からはじめて東海・北陸・近畿エリアにて
販売される予定とのことですので、
この新感覚をマーケティング視点でぜひ体験してみてください。

さて、ぼちぼち結論に入っていこうと思います。

酒類市場は縮小し、競争環境は激化している点からも、
就学前教育保育マーケットと類似しています。
市場縮小は若年人口の減少によるところが大きいので、
この現象を嘆いても変わることはありません。
この縮小市場においてASAHIが取った戦略は、
「自社の資産を活用した新たな価値の提案」だったわけです。

今年の園児募集で言えば、
全国どのエリアをとっても人口は減少しているため、
結果は減少傾向にあり、200名以上の大規模園では
園児数を維持することが難しいケースが増えています。
しかし、トレンドが減少傾向にある中で、
定員を超えた応募があるというケースもあります。

そのような園がやっていることは
教育価値を分かり易く提示して実践するという、
基本価値を質感をもって提供する(X軸)ということと、
入園の低年齢化や預かり等の就労ニーズへの対応など
地域のニーズに適切に応える(Y軸)の実践。

ここまでは殆どの園が可能な範囲で実践していると思います。

これら基本価値に加えて、
そこにワクワクしながら通えるような提案の仕組みがある(Z軸)
というのが募集で成果を出している園の取り組みです。

基本価値は皆さんの資産です。
資産をきちんと棚卸(整理)して、相手に伝わる提案を心掛けてください。
これは採用でも同じことが言えます。
自園の価値を丁寧に、分かり易く、相手に伝わるように伝える。
マーケティングとはそのようなコミュニケーションの総称です。

是非、実践してみて下さい。