【本文のポイント】
・若い世代の間で流行する「あかり飯」とは?
・「あかり飯」のマーケティング戦略
・自園の「不」
若い世代の間で流行する「あかり飯」というものを
ご存じでしょうか?
「あかり飯」とは、料理研究家の長谷川あかりさんが
提案するレシピのことで、
2023年1月に投稿された「バター酒蒸しハンバーグ」
多くの若者に知られるようになりました。

レシピはXから発信され、
「バター酒蒸しハンバーグ」は現時点で3億インプレッション、
78万いいね、12万リツイートと大きな話題になりました。
3億インプレッションという数字はレシピの投稿としては
異例の数字です。
ネットニュースなどに取り上げられるような
いわゆる「バズり投稿」は1000万~
ヒルナンデスなどでもコーナーを持ち、
「バズレシピ」で人気の料理研究家リュウジさんと比較すると
彼がXで発表したレシピの内、
最もいいねされた投稿が16万いいねとなっていますので、
長谷川あかりさんの投稿が多くの方の目に留まり、
支持されたことが分かります。
私も「バター酒蒸しハンバーグ」から彼女を知り、
実際に彼女の提案する「あかり飯」を
何度も作ったことがあるファンでもあります。
個人の趣味嗜好や価値観が現れやすい
料理という分野において
ここまで彼女のレシピが多くの若い世代に支持される理由は
非常に緻密なマーケティング戦略にあります。
以下に、その戦略を整理しました。
戦略①徹底したペルソナ設計と提供価値の明示
彼女が出版した料理本のタイトル・煽り文を読むと
アピールしたい層、内容が顕著に表れています。
『クタクタな心と体を美味しく満たす いたわりごはん -仕事終わりにすぐできて、おいしくホロッと沁みる味-』
『つくりたくなる日々レシピ-
『材料2つとすこしの調味料で一生モノのシンプルレシピ-「…

また、彼女のインタビューでは、
マーケティング戦略として以下のようなことも述べていました。
『料理家になりたいと思ったタイミングで、
自分は料理のどこに不満があるのか、
何がしたくて何ができるのか、
あとはレシピのコンセプトと届け先、
自分のバリューなどをひととおり書き出したんです。
そこで、自分のやりたい方向性と
世の中で求められているものを照らし合わせたときに
取りこぼされているなと思ったのが、
20代後半〜結婚してるかしてないか
ギリギリ、ぐらいの年齢の方向けの料理だったんです。
料理をする必要性にそこまで迫られていない人たち。』
参考:http://tvablog.tv-asahi.co.
ここに彼女のマーケティング戦略が表れています。
【ターゲット層】
・20代後半〜結婚前後で、料理の必要性に迫られていない人
日常が忙しく外食やコンビニでもいいが、
【提供価値(コンセプト)】
・忙しい毎日でもできる「シンプルさ」
・自分を「いたわる」要素
・必ずしも料理好きではない人に向けたアプローチ
ターゲットと提供価値(コンセプト)がぶれずに
示されていることが分かります。
また、ターゲットの設定も非常に巧みです。
女性の就業率が上がっただけでなく、
女性の初婚年齢はこの30年間で3.4歳上がっています。
上記データからもわかる通り、
家庭に早くから入るのではなく
自分のキャリアを築いていきたいと考える女性たちは
マジョリティになっていますが、
これまでは、そういった志向を持つ女性たちは
「料理に馴染まない、興味がない層」として扱われてきました。
彼女たちに対するそういった先入観を取り払い
メインターゲットに据えた点も、
マーケティング的な戦略として非常に優れています。
戦略②あえて「不」を残して魅力に変える
別のインタビュー記事に、興味深い記述がありました。
「やらなきゃいけないものは辛いけど、
(中略)自ら望んで取り組むものって楽しいですよね。
(中略)やらなきゃいけないものを主体的にやっている感覚に
すり替えてくれるレシピがあればいいんだと気づきました。」
「あまりにも簡単すぎると
『わざわざ手をかけて作った料理!』という感覚が得られず、
少し損した気持ちになってしまうんです。」
参考:https://lee.hpplus.jp/
通常、サービスを提供する際は、
顧客の「不便・不満」をすべて解消しようとしがちです。
彼女の戦略が巧みだと感じるのは、
「あえて「不(手間)を残した」点にあります。
例えば、
材料は塩と野菜だけなのに40分煮込む時間を取っていたりなど、
ターゲットにしている層には本来マッチしないはずの
「不」を残し、それを「自分をいたわる」要素として
彼女のレシピの独自性に繋げています。


・すべてを簡単にするのではなく、少しの手間(不)を残す
・その手間(不)に「取り組みたい」と思わせる
・結果として、自ら選んでやり遂げたという「自己肯定感」
あえて「不」に挑戦させ、
自己肯定感を高める要素にすることで、
「不」を魅力にしているということです。
この「あえて残した不を魅力に変える」考え方は、
マーケティングにおけるヒントとなります。
例えば、園の採用活動においては、
求職者にとって魅力的な内容、
知ってほしい内容だけでなく
園として整えきれていない条件面や
現在の学生のニーズと
マッチしづらい情報も実際にあると思います。
給与の多さや業務負担の少なさなど、
採用難の保育士や幼稚園教諭の採用市場は
条件競争に走りがちです。
もちろん、若者の価値観は変化している中で
他と見比べて見劣りしないレベルの条件を
揃えることは最低限必要ですが、
ただ「働きやすいですよ」「簡単ですよ」と
アピールしても条件競争に乗ることになるばかりか、
園の特色が伝わりにくくマイナス要素となってしまいます。
そこで、採用マーケティングの手法として、
以下のプロセスで「取り除くべき不」と
「あえて残すべき不」を整理すると、
独自性のあるアピールが可能になります。
1.ターゲットを詳細に絞る
2.ターゲットが抱える「不」を解消する要素を伝える
3.自園にある「不(大変なこと・課題)」もあえて伝え、
それに「取り組みたい」と思わせる打ち出しをする
<1.ターゲットを詳細に絞ることについて>
まずは、採用したい人、園に合う人の言語化を行い、
求人を見てほしい人(ターゲット)を定めます。
特に、中途採用やパート採用においては、
ターゲットを絞りやすいです。
なぜなら、「前職を退職した理由(=前職での不)」から逆算し、
ターゲットを検討できるからです。
例えば、25歳から30歳くらいまでの女性を採用したい場合、
その層が退職を検討する理由としては
以下が考えられます。
・人間関係が悪い
・結婚後も長く勤めている女性の先輩がいない
・残業が多く、有給が取りにくい
・年齢を重ねても昇給が見込めない
・キャリアの選択肢が狭く、不安がある(現職に飽きた、
ある程度の期間勤めた上で退職を検討する場合、
単なる仕事内容への不満が理由である可能性は低いはずです。
もし保育現場の仕事そのものに不満を持っていた場合は
もっと若いうちから転職活動を行っていると考えられるからです
25歳~30歳という年齢は
保育の現場職から管理職に昇格したり、
結婚や出産などのライフイベントが
現実味を帯びてきたり、
生活に大きな変化が生じるタイミングです。
このタイミングで
前職の「不」を解決し、
将来の自分にとって良い職場で働きたい、
と決断する方が多いと考えられます。
次のステップとして、
「自園にマッチする人材は、
前職のどのような点に『不』を感じ、
それをどう解決したくて転職してくるのか」という
背景を深掘りしてみましょう。
これにより、ターゲット像を
さらに精緻に設定することが可能になります。
<2.ターゲットが抱える「不」
ターゲットを定めた上で、
ターゲットが抱える「不」
ここでポイントなのが、
できるだけ具体的にイメージができるように記載することです。
例えば、職員室の雰囲気が良いということを伝えたい場合、
それだけを記載しても抽象的で印象に残りにくいです。
○○といった取り組みがあるといった形で、
実際に見学に行かずとも想像できる情報を記載しましょう。
<3.自園にある「不(大変なこと・課題)」もあえて伝え、
それに「取り組みたい」と思わせる打ち出しをする>
ここが最も重要です。
労働環境としての理不尽な「不」は取り除きつつも、
保育の質や園の理念を守るために
「あえて残している『不』(こだわるがゆえの手間)」は、
隠さずに独自の魅力として発信します。
このプロセスで有効なのが、
「実際に退職した方がどう感じていたか」の
聞き取りを行うことです。
退職は一概に悪いことではなく、
組織が大きくなれば適切なタイミングで
新陳代謝が行われるのは自然なことです。
重要なのは、
なぜ退職に至ったのか?ということをヒアリングし、
その理由が「改善すべき労働環境」なのか、
「園の理念を守るためのこだわり」なのかを精査することです。
価値観のズレが生じるということは、
裏を返せば「自園が効率や利便性を犠牲にしてでも、
絶対に譲れない強いこだわりを持っている」証拠でもあります。
万人に受け入れられなくても、
その「譲れないこだわり」を明確に言語化することで、
特定の価値観を持つ人には深く刺さる独自の魅力へと変わるのです
例えば、行事が頻繁にある保育園であれば、
歓迎要件に「チャレンジしてキャリアアップしたい人」
教育プログラムや教育への想いを記載し、
行事の年間スケジュールを詳細に公開することで
教育的取り組みに意欲的な求職者と出会える確率が高まります。
また、ワンフロア保育を導入している園であれば、
単にその事実を記載するだけでなく、
「インクルーシブ保育を提供したい想いに共感してほしい」
そうすることで、園のスタンスを正しく理解し、
その環境下で積極的に保育へ取り組める人材を引き寄せることがで
実際に、退職者から出た「大変だったこと」の声をヒアリングし、
それを「当園が理念として大事にしているこだわりの手間」として
具体的に求人に記載したところ、
閲覧数が2倍になった例もあります。

秋以降は中途採用がだんだん活発化してくる時期になります。
「簡単さ」だけを売るのではなく、
自園が誇りを持って取り組んでいる「不(手間)」を、
自分事としてどう捉えてもらうかを意識して、
今年度の採用発信にお役立てください。
