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園児募集と採用マーケティングのこれから
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募集や採用といったマーケティング分野は
いよいよ新しい局面に入ってきており、
自園の世界観(=文化)によって相手の心が動く、
言わば、判断軸となっています。
合理性を包み込み、独自性と世界観で選ばれる園というのが
今後どんどん増えていくことになるでしょう。
1.新制度開始10年の節目と少子社会へのシフト
2015年に始まった「子ども・子育て支援新制度」は、
今や「子ども子育て支援制度」と呼ばれ、定着しています。
制度の目的は当初の「量の拡大」から「質の向上」へとシフトし、
園経営に求められる視点も大きく変化しています。
一方で、
幼稚園や幼稚園由来の認定こども園が
“主要顧客”としてきた1号認定児の募集は、
満3歳児を含め顕著に減少傾向が見えています。
理由は大きく3点に整理できます。
①出生数の減少 (そもそも母数が激減している)
②入園の低年齢化(2歳未満の入園にシフトし1号認定の対象マーケットが激減)
③保育認定入園の増加(2・3号の保育認定が増加することで1号枠を圧迫している)
こうした構造的変化は、
従来の募集戦略が通用しない時代の到来を意味します。
2.合理性の“標準装備化”
新制度以降、教育保育に係る費用負担が著しく軽減されたり、
就労支援(保護者の)という側面が強化されたことにより、
園選びをする上で合理的な”保育サービス対応型のニーズ”は
ますます重視されるようになりました。
「平日1日11時間の開園」「(自園調理の)温かい給食の提供」「低年齢児の受け入れ体制」
これらは「新3種の神器」とも呼べる“必須条件”です。
整備が不十分であれば不満の原因になり、選ばれることは難しいでしょう。
すでに募集定員の8割以上を集めている園の多くは、
これら「新3種の神器」を標準装備として整えています。
しかし問題は、標準装備が整っているだけでは選ばれなくなっているという点です。
超売り手市場では合理性は必要最低条件に過ぎず、十分条件にはならないのです。
3.差別化の本質は「子どもの姿」
選ばれる理由をつくるのは「差別化要素」です。
では、自園がかつて選ばれていた理由は何だったでしょうか。
思い返せば、説明会や資料、プレゼンテーションの中心には
常に「子どもたちの姿」がありました。
自園の教育・保育活動を通じて育まれる成長のプロセスこそが、
唯一保護者に届く独自の価値提案だったのです。
つまり、合理性を包み込みながら、
自園独自の教育・保育活動を通して子どもがどう育つかを的確に伝えること。
これが他園との差別化であり、選ばれる理由そのものなのです。
4.採用環境の厳しさ
園児募集と並んで経営者を悩ませるのが採用です。
新卒者のうち、幼保業界に就職するのはわずか50~70%程度。
しかも20歳人口の減少で母数は半減。
女性が多数を占める業界で、対象者はさらに狭まります。
加えて、一般企業が「ワークライフバランス」や「キャリア支援」を武器に
保育教諭を対象にした採用競争に参入しており、
従来型の条件提示だけで戦い抜くには随分心許ない状況になっています。
いま必要なのは、
単なる処遇改善ではなく「働きたいと思わせる世界観」の提示です。
では、その”世界観”とはいったいどんなものなのでしょう?
5.Z世代が求める組織像
1990年代中盤以降に生まれたZ世代は、
今後の募集・採用の中心層となります。
弊社、林が先月まとめたレポートによると、
彼らの価値観は従来世代と大きく異なり、
次の3つの点で特徴づけられます。
①安心感の定義の変化
終身雇用や倒産リスクのない組織など「生活保障」に安心感を覚えていた従来世代に対し、
Z世代は意見の言いやすい、風通しの良い風土やパワハラの無い心理的安全性が土台にあり
かつ、スキルアップや自己成長の機会がある「環境の安定」こそが安心感になると言います。
従来世代が「生活保障=安心感」だったのに対し、
Z世代は「心理的安全性+成長機会」を安心感とします。
パワハラのない職場、意見が言える風土などが求められます。
②仕事観の変化
「仕事の中に人生がある」が従来世代の仕事感だったのに対し、
Z世代の仕事感は「自分の人生を構成する要素として友人、余暇、家族、趣味などと
同等のポジションに仕事がある」というのですから真逆の価値観です・・・。
③欲求と報酬の変化
「残業は当たり前、褒め言葉よりも先立つもの(お金)」を優先した従来世代に対し、
Z世代は“限定合理的な感情人”と呼ばれ、もちろん先立つものは大事だけれど、
「褒め言葉で承認し、ねぎらってもらう」ことが優先される場合も少なくないと言います。
つまり、豊かさの最先端で生まれ育ったZ世代は先立つものは支給されて当たり前だし、
感情報酬が不十分だと満たされない心理構造が構築されているようです。
6.“冒険的世界観”というひとつの納得解
こうした価値観をもつZ世代が集うのは、“冒険的世界観”で運営される組織です。
「好奇心を掻き立てる問いが飛び交う」「個性を活かし合える仲間がいる」
「対話と価値創造が絶え間なく繰り返される」・・・
そんな組織にこそ、人材が集まり、定着し、力を発揮するのが令和という時代です。
VUCAという「正解のない時代」において最も重視されるのが、
「納得解」と呼ばれるものです。
与えられた正解をひたすら進めばよりよいゴールにたどり着けた時代は終焉を迎え、
思考を凝らしながら判断を繰り返す納得解には、自ら進むというエネルギーが宿ります。
冒険的世界観をエネルギーとして、それぞれが能動的に動く組織に
人が惹きつけられるのは、「役に立ちたい」「成長したい」という
人の欲求を満たす環境だからなのでしょう。
今年9月から開始した新制度園の「経営情報の見える化」の義務化は、
横並びの比較が避けられない時代に入ったことを意味します。
誰もがスマホひとつですべての園の定量的情報が比較できる時代だからこそ、
合理性+独自性+世界観の3点を磨き、地域に発信し続けることが、
経営者の新たな役割となることも念頭に独自性を追求していきましょう。
